空き家問題は地方だけでなく、高齢化が加速する都市部でも深刻になっている。全国の空き家900万戸(2023年10月時点)のうち東京都は89万8000戸で、この5年間で9万戸増えた。23年の法改正により空き家を放置していると、税金が大幅に増える恐れが出て来た。そこで空き家のどんな活用があるのか調べてみると意外な活用事例があった。
東京都世田谷区にある築60年超の空き家がレンタルスペースとして生まれ変わったのは新型コロナ禍のことで、予約サイトに載せて1時間単位で貸し出したところ、予約がひっきりなしに入るようになったらしい。
どんな目的で使っているのか運営会社に聞いてみると、7割以上が撮影の目的だという。サイトの口コミのコメント欄を見ると、コスプレという言葉が結構出てくる。30代の男性は仲間と一緒に「刀剣乱舞」のキャラクターのコスプレ撮影会を楽しんでいる。縁側や掛け軸、姿見と昭和レトロな雰囲気は「サザエさん」の家のよう。
かつて祖母が住んでいた家をレンタルスペースにしようと決めたのはお孫さん。思い出の家を売りたくないが、両親も自分も住む予定はない。誰かに使ってもらうことで空気の入れ替えができればいいと考え、海外生活で体験していたシェアリングエコノミーに着目した。近所の人たちは皆歓迎してくれた。近所の人たちは不法侵入による治安の悪化を心配していたという。
空き家がレンタルスペースとして需要が見込めるのは、最寄り駅から徒歩10分ほどの物件。徒歩20分近くかかる物件は難しく、どれほどの需要があるのは未知数である。
空き家のレンタルスペースが人気なのは、味わいのあるレトロ感な雰囲気と、1時間の費用が1000円台というコスパの良さである。一般的な撮影スタジオを借りるよりも安いのも魅力的である。
コスプレイヤーの間で口コミが広がり、月のレンタル料は約40万円、時には80万円の月もあるらしい。
レンタルスペースの運営代行手掛ける会社では、24年に入り空き家をレンタルスペースにできないかという相談が3倍ほど増えたとの事。親が亡くなったり、介護施設に入ったりするためだ。背景には、23年12月に施行された改正空き家策特別措置法の影響がある。「問題のある空き家」の対象が拡大され、管理不全と判断されると、固定資産税軽減の特例措置の対象から除外される可能性がある。
毎月の家賃が入る賃貸と違い、レンタルスペースは利用状況に応じて収入はばらつくが、初期投資はあまりかからない。千葉県船橋市では、子どもの独立後の子ども部屋を貸し出し、子ども同伴のママ友会の場として人気となった事例や大学生の寮として部屋を貸し出している事例もある。
コスプレイヤーの視点で空き家寸前の状態の実家を改めて眺めてみると、和テイストの衣装の背景に映えるのではないかと思えてくる。動画や写真によるコミュニケーションが主流のSNS時代ならではの空き家の活用である。