1986年から始まった「無電柱化事業」が37年経過しても一向に進まない。都市開発地域はまだしも、昔ながらの商店街や路地に建つ電柱は、道路幅、工事価格、工事方法、セキュリティやメンテナンスなどで無電柱化にはなかなかならない。街並みの美観、都市防災機能の強化、安全で快適な歩行空間づくりから無電柱化は必要なのだが。ちなみにパリやロンドンは100%無電柱化されている。
今回説明したいのは、この無電柱化の埋設管市場に、ビジネスチャンスがあるか否か、埋設管にどの様な商材が使われてくるのか、要するに課題とニーズを知り商品開発に結び付けようとするのがクライアントの狙いである。クライアントは鉄鋼メーカー、商材は鋼材である。
調査項目は、専門的になるが①埋設管の電力線や通信線を接近させることによる電磁波シールドの課題と改善(電線、通信線サイドのシールド技術で対応するのか否か、新たに外部で囲う部材で対応するのか否か) ②埋設管のシステム構造上から構造や強度に耐えられる鋼材のニーズ(構造用の電線管のニーズの有無と内容、蛇腹管などの新しいアイテムの導入の可能性) ③無電柱化が加速する場合の課題(工事価格や工事方法、セキュリティやメンテナンス、施工業者の対応、電力線と通信線の対応、箱類製造の対応)④現存する約3,300万本の電柱の今後の対応(無電柱化完了計画の内容と補修の考え方、補修の場合鋼材使用用途・部材・品質要求) ⑤参入企業の動向である。調査自体が専門的なので、鋼材の特性を理解するとともに質問項目もクライアントと具体的に設定した。調査方法はキーマン面接調査である。
対象企業は、東京電力パワーグリッド(株)、北海道電力(株)、東京国道事務所(中央区銀座通リ)、東京都建設局道路管理部、東京都建設局第五建設事務所(浅草通り)、総務省情報流通行政局、NTTインフラネット(株)、既に工事を行っているジオリゾーム(株)、(株)ニュージェック、建設コンサルタントの(株)近代設計、(株)オリエンタルコンサルタンツ、地中埋設管メーカーのJFEスチール(株)の12社である。この対象企業もクライアントと検討して決定した。
鋼材ニーズの調査結果は、地中埋設管については東京都内において、塩ビ管などの樹脂管が大半を占めており、鋼材はほとんど使用しない。または地中埋設管は軽量性、強靭性を追求した樹脂管が求められており鋼材のニーズは無い。地中埋設管の大半は塩ビ管で、長年の実績、品質、作業性などから鋼材のニーズは考えられないと回答した対象先が大半だった。埋設管に鋼材が使用できる可能性を追求したが、結果はニーズが無いことが分かった。クライアントは残念がっていたが、これも答えの一つである。
無電柱化を加速させるための課題については、電線類、変圧器などの機材のコンパクト化が課題。直接埋設方法、小型ボックス活用埋設方法といった効果的な埋設方法が進まないのが課題。また、新たな埋設方法の取組が遅いのを課題としている。今回私が無電柱化の埋設管調査を取り上げたのは、自治体や建設コンサルなど敷居の高い対象先に調査を行った稀な調査だったからだ。